社長味方


2017年(平成29年)

◆6月◆


【需給バランス】

 2015年度の国民医療費は前年度比3・8%増の41兆5千億円。毎年増大する一方の医療費を抑制するためとして、政府は2年に1回の診療報酬改定で診療単価や薬価を引き下げている。高齢化に伴って患者数が増えるので、診療単価を引き下げるという理屈だ。

 

 パソコンや薄型テレビが登場した直後は、当然、販売価格は高額だった。モノの値段やサービスの対価は本来、需給のバランスで決まる。供給数が増えて普及が進めば、必然的にモノの値段は安くなる。ただし、これは一般耐久消費財や食料品などに当てはまる理屈。政府の理屈は、医療サービスと薄型テレビを同列に並べて論じたようなものだ。

 

 患者が増える(需要増加)一方で、医師・看護師などの医療従事者が不足(供給不足)している現状では、むしろ「単価が上がる」のが自然なはず。政府の理屈は、これとは正反対のものだ。

 

 この理屈で最も打撃を受けるのは首都圏の総合病院だといわれている。患者の少ない診療科を設置しなければならないし、人件費などのコストは地方よりも割高になるためだ。

 

 マンパワーが不足している医療の現場に対して、診療単価を下げた分、たくさんの患者を診ろというのでは、サービス残業も医療ミスも減りはしないだろう。

【〝七〟】

 諸葛孔明は、敵将の孟獲を捕らえるたびに逃がしてやった。それを7回も繰り返すと、さすがの猛将もこの天才軍師に心服するようになった。『蜀志』の丞相伝にあるこの故事から、相手を自分の思い通りにあしらうことを「七縦七擒(しちしょうしちきん)」という。

 

 中国の故事には孔明のように有能な人物がたくさん登場する。晋の時代、布告文を書くように命じられた袁虎という役人は、主君の馬前で立ったまま、たちどころに7枚の長文を書き上げた。このことから名文をあっという間にスラスラと書ける才能のことを「倚馬七紙(いばしちし)」という。

 

 これとは別に、すぐれた文才に恵まれていることを「七歩之才」という。曹操の死後、文帝に即位した曹丕が弟の詩才を妬んで「七歩あるく間に詩を作れ。できなければ死罪にする」と命じると、弟の曹植がすぐさま兄の無情を嘆く詩を作ったため、文帝は大いに恥じた、という故事。毎日のように締切時間に追われている新聞記者としては、なんとも羨ましい才能だ。

 

 さて、『社長のミカタ』はおかげさまで「創刊七周年」。毎号「七不思議」のようなテーマを取り上げては「七難八苦」した挙句に「七転八倒」。そのたびに多くの取材先、執筆陣、読者諸賢から貴重な情報を得て「七転八起」してきた。今後も皆様の社業と同様に「七重八重」と紙齢を重ねていきたい。

【反省会】

 毎年、『社長のミカタ』の6月号は「創刊〇周年記念号」として発行しております。ご愛読者の多くがお気付きで、ご存知のことでしょうが、この号の巻頭面コラム「二升五合」では毎年、数字にまつわる言葉に関連付けたエピソードを展開しています。1周年のときは「一」、2周年目には「二」の文字が入った四字熟語やことわざ、金言・格言など、いわゆる故事成句(成語)をたくさん取り上げて、なおかつコラムの原則である「起承転結」になるように構成しています。

 

 今年は創刊7周年でしたので、取り上げる数字(文字)は「七」「7」ということになります。じつをいいますと、これまでで最も手ごわかったのは、昨年の「六」でした。さいわい、大河ドラマがヒットしていましたので「六文銭」をほとんど説明なしで使うことができましたが、なかなかあとが続きません。「六道輪廻」やモームの小説『月と六ペンス』、果ては「双六(すごろく)」まで引っ張り出すことになりました。これらをひとつのコラムに整合性を持たせて盛り込むにあたっては、まさに「思案六法」。もうひとつ言葉を足すべきか、それともなにかを外すべきか、非常に悩んだことを覚えています。

 

 7周年記念号の「二升五合」を振り返ってみますと、「七縦七擒」「倚馬七紙」「七歩之才」「七不思議」などが並んでいます。自分で書いておいてなんですが、四字熟語、故事成句ばかりを並べるのではなく、もっと「7」「セブン」なども使ってみるべきだったかもしれません。漢字が並ぶと真面目で格調高いような感じはします。しかし、「音」としてのニュアンスが異なるものを織り交ぜてみたほうが、文章の妙だったのではないかなあ、などとも思うわけです。

 

 そうはいっても、錆びついている古いアタマでは、そうそう「7」に関するコトバが出てきません。「ラッキーセブン」「007」「なくて七癖」「スリーセブン(777)」「白雪姫と七人のこびと」「アブラハムには7人の子」……。ああ、そういえば「七福神」というのもありました。商売繁盛を意味する「二升五合(ますますはんじょう)」なんですから、これは取り上げるべきでした。それに、本号は「6月号」だったのですから、来月の「七夕」にも触れておけばよかったかもしれません。

 

 映画好きの本紙デスクは「なんでクロサワの『七人の侍』を盛り込まないんですか。百歩譲って『荒野の七人』でもよかったのに」などと言っております。わたしとしてはむしろ、「百歩譲る」の使い方がおかしいことを、彼に指摘したいところです。

 

 今回の本欄は、いつも新聞が印刷された後にこうやって反省と後悔ばかりしている、ということを恥ずかしながらお伝えしてみました。

◆5月◆


【〝終の棲家〟になればいいけど…】

 震災直後の夏のことですから、6年前になります。新築時から10数年住んだマンションを売却して、新たに中古のマンションを購入しました。ようするにマンションの買い換えによる「住み替え」です。売るのも買うのも同じタイミングで実行して引っ越しました。

 

 仲介してくれた不動産会社さんによると、それまでの家を売却するのはさほど難しくないとのことでした。大手デベロッパーが全国で展開するブランドマンションシリーズで、総戸数も100戸を超す大規模物件だったために管理も行き届いていたようです。「これなら、短期間のうちに売れますよ」と言われました。しかし、その「相場的に見て、これくらいの値段なら売れる」というプロの「売却予想価格」を聞いて、ちょっと不安になりました。新築で購入した際の価格と大差なく、むしろ購入時よりも高く売れそうだといわれたからです。

 

 売却益が出ますと、当然ながら譲渡所得に課税されることになります。わたしとしてはローンの残債をきっちりと完済できる価格で売れれば満足でした。それまで毎月支払ってきた住宅ローンの金額は、近隣の家賃相場をはるかに下回っていましたので、「家を売った後もローンが残る」状況にさえならなければいいと思っていたわけです。少しでも高く売却して、新たに買い換えるマンションの購入資金に充てようなどとは、あまり考えていませんでした。

 

 そこで、仲介業者に打診してみました。「買い手を探してもらうよりも、おたくの会社で買い取ってから転売したらどうか」と。わたしとしては確実に売却できて、それまでのローンが完済できればいいのですから、ローンの残債額と同額で買ってくれればいいと持ちかけました。プロが「このくらいの値段なら売れるはず」と試算していた金額よりも安いのですから、購入後に売却すれば仲介手数料収入よりも儲かる計算です。

 

 これを提案できたのは、新しく購入するマンションの売主も、その不動産会社さんだったからです。ようするにわたしとしては、「住んでいる家が売れたら、こっちの家を買います。ですので、この家を売りたいのなら、わたしの住んでいる家を買い取ってください」という提案だったのです。さらに「安く売る分、新しく買う家の価格を下げてください」と交渉し、承知してもらいました。

 

 これが〝終の棲家〟となればいいのですが、売却して田舎暮らしをしようなどと考えると、若干安く手に入れることができた分、今度は譲渡益に課税されるでしょう。バブル期に購入した物件でもない限り、住宅は買い換えをしないと、いつか課税される仕組みになっています。

【レッドテープ】

 「杓子定規なお役所仕事」という意味を持つ英語の表現に「レッドテープ」という言葉がある。英国では昔、公文書を赤いひもで綴じていたことが言葉の由来らしい。

 

 小学校で使う「道徳」の教科書が文科省の検定を受けて、散歩の途中に立ち寄る店を「パン屋」から「和菓子屋」に修正した。「わが国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つ」という学習指導要領に沿っていないという意見に、出版社が従ったためだ。文科省のレッドテープもひどいが、それに従う教科書会社もどうかと思う。

 

 公園を和楽器店に差し替えた教科書もあったというから驚きだ。アスレチック遊具で遊ぶ描写がまずいと判断したらしい。小学生の身近に、琴や三味線を扱う店がどれほどあるというのか。

 

 教科書会社にしてみれば、検定に合格するのなら、どちらでも構わないのかもしれない。下手に抵抗して不合格となれば、経営危機に直結する可能性もある。

 

 このままだと、クラブ活動を教科書で取り上げる際に、フェンシング部は剣道部へ、レスリング部は柔道部や相撲部へと自主的に修正されかねない。

 

 権力を持つ誰かの意向を過剰に、そして真剣に忖度するようになると、滑稽な結果を招く。恐ろしいのは、民間の仕事ぶりまでもがレッドテープ化することだ。カレー店はカレー店のままでいい。和食屋になる必要はない。

【地域医療構想】

 47都道府県が「地域医療構想」をまとめた。2025年の病院のベッド数を、13年時点の約135万床から15万6千床減らす計画だという。削減率はじつに11・6%。首都圏などを除く41道府県でベッド数が減り、8県では削減率が3割を超える。

 

 地域医療構想は、増え続ける医療費の削減を目的に策定されたもの。高齢化のピークとされる25年時点のベッド数を推計した結果、全国で119万799床という結果になった。これは内閣官房の専門調査会が15年に示した削減計画と符合する数字だ。どちらも人口減少などで現行のベッド数が〝過剰〞になると予測している。

 

 削減率が3割を超えたのは鹿児島、熊本、富山、宮崎、佐賀、徳島、山口、高知の8県。2割台は19県。熊本、鹿児島、北海道の3道県では削減数が1万床以上となっている。

 

 「入院患者を医療施設から自宅へ戻す」といえば聞こえはいいが、それを実現するには在宅での医療・介護サービスの充実が欠かせないはず。医師不足が問題になっているが、在宅医療・介護の現場では、慢性的な人手不足がより深刻だ。そんな中、衆院で介護保険法改正案が強行採決された。31本もの法改正を一括したこの法案の審議時間はわずか20時間。

 

 増加する在宅患者への医療提供は、開業医の大きな課題だ。

◆4月◆


【罰則強化】

 実際とは異なる虚偽の賃金や待遇を示して労働者を集める「ブラック求人」。好条件に見せかけて求人するこうした手口を封じるため、厚労省では企業への規制と罰則を強化するという。

 

 昨年発覚した自動車メーカーによる燃費データ不正問題を受け、政府は、虚偽報告をした企業への罰則を強化する内容の道路運送車両法改正案を閣議決定した。現行の「罰金30万円以下」から「1年以下の懲役もしくは3百万円以下の罰金」「法人に対し2億円以下の罰金」へ改正するという。

 

 飲酒運転の罰則が強化されたことで、事故が減ったのは事実だ。厳罰化には、事故や犯罪への抑止効果があることは否定しない。しかし、なんでもかんでもルール化して罰則を強化しなければ〝悪事〞が減らないというのも情けない。

 

 新国立競技場の当初計画をはるかに上回る巨額な建設費。不認可となった小学校への国有地売却。文科省の組織的な天下りあっせん。震災復興予算の流用と無駄遣い。議員の豪華な〝視察〞旅行。不透明な政務活動費や政治資金。築地市場の豊洲移転……。ルールが「法律」のかたちで定められているにもかかわらず、このザマはなんだ。

 

 ルールをつくる側は、問題が起きると「罰則強化」で対応してきたが、自分たちは別らしい。まったくもって冗談ではない。法をつくり運用する側にこそ厳罰が必要だ。

【~~の割合】

 じつに27・2%、4人に1人以上がそう答えたという。「1年間スポーツをしておらず、今後もするつもりがない」という成人の割合のこと。スポーツ庁が実施した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によるもの。

 

 同庁では、週1回以上スポーツをする成人の割合を、65%にまで増やすことを目指しているが、この調査では42・5%にとどまった。年代別では70歳代の65・7%が最も多い割合で、なんとか目標数値をクリア。少なかったのは40歳代の31・6%だった。そして全体の67%、3人に2人以上の割合の人が「運動不足を感じる」と答えている。

 

 日本たばこ産業(JT)が毎年実施している調査によると、昨年の喫煙者率は全体で19・3%。男女別では男性が29・7%、女性が9・7%だったという。つまり、タバコを吸う人の割合は、いまや5人に1人にも満たないわけだ。

 

 「生活習慣病のリスクが高まる酒量」(清酒換算で男性は2合以上、女性は1合以上)を飲酒している人の割合は男性が15・8%、女性が8・8%。近年、この割合は女性で増加しているという。

 

 割合は少ないようだが「運動をする気がなく、喫煙はやめられず、毎晩飲酒している」という人もいるわけだ。生活習慣病の予防にはこうした層への働きかけが不可欠だろう。

【税の公平性】

 国有地を8億円も安く買えるのなら、誰だって欲しいですね。しかも、100億円の土地が92億円に値引きされたということではなく、9億円の土地を8億円値引いた上に、なんやかんやと理由を付けて、ほとんどタダ同然で手に入れることができたそうです。手続きに虚偽や不正があった疑いがあるようで、学校の設立自体が不認可となり、「学校の設立を前提に」払い下げられた国有地についても当然、国が「買い戻す」ことになるようです。しかし、買い戻せば済むという話ではないと思います。

 

 たとえば、子どもに相続させなければならない土地があるとします。その相続税評価額が、仮に9億円だとしましょう。後々の相続税の重い負担を少しでも軽くしようと考えたお父さんは、自分が元気なうちに、この土地を長男へ売却してしまおうと考えます。今回の国有地のように、まさか8億円も値引きするわけではなく、6億円程度で売ろうと考えて税理士の先生に相談します。先生の答えは、まず十中八九「それですと、不当に安い取引だとみなされて、贈与税が発生してしまう可能性が高いです」というものでしょう。

 

 今回の国有地は、「敷地からゴミが出た」ので大幅にディスカウントしたとされています。なるほど、ゴミという「負債付」の物件だったわけですね。国の財産を処分する財務省の理財局というお役所は、はじめからそうと分かっていて「通常9億円の土地ですが、ゴミを撤去してもらわなきゃならないので、その費用分を値引きします」と売り出したのでしょう。誰でもそう思うことでしょうが、しかし、それは違うのです。

 

 「ゴミが出た」と言い出したのは、学校側なのです。しかも、お役所はその事実を確認していません。ゴミが出たという現場を確認することもなく、学校側の「撤去費用に8億円かかる」という言い分を丸のみするかたちで値引きしたそうです。しかも、撤去したはずのゴミがどこに処分されたのかも把握していません。さらには、業者に支払ったはずの処分費用の領収書も確認していないのだそうです。なぜかといえば、「そういう契約にはなっていない」からだそうです。たとえるのなら、病院での患者負担分(実費)をカバーしてくれる保険に入っていたとして、その保険金を受給する際に、領収書が要らないというようなものです。そんなこと、ありえませんね。

 

 税務当局は「税の公平性の観点からも、申告漏れや脱税は絶対に見逃さない」といいます。まったくその通りです。まじめに働いて正直に納税している社長さんたちがバカを見るようなことがあってはなりません。すべての納税者に「公平」に対応してもらおうじゃありませんか。

◆3月◆


【もらってたまるか】

 国会でセンセイ方が年金を語るときに、「将来、年金がもらえなくなる」などと表現していると違和感を覚える。年金は世代を越えて支え合うもの。それまで現役世代として高齢者の生活を支えてきたひとが、その役割を果たし終えたのならば、堂々と胸を張って次世代に支えてもらえばいいだけのこと。「年金は世代と世代の支え合い」、年金標語でもそう強調しているではないか。

 

 「もらう」ものであるのならば、その一方で「呉れてやっている」誰かが存在することになる。力士や芸能人のタニマチと同様、年金制度にもタニマチがいるとでもいうのか。

 

 年金制度は、一方的に支援したり、支援されたりするものではない。誰かからお金を「恵んでもらう」のではなく、「受け取る」ものだと認識したい。

 

 議員が年金を「もらう」ものだと表現するたびに、国からもらっているように錯覚してしまう。「もらえているだけでもありがたいと思え。その年金が減額されるからといってモンクを言うな」というニュアンスに聞こえる。

 

 2006年に廃止された「国会議員互助年金制度」の掛け金は年額126万円で、10年間払い込めば最低でも年額412万円の年金が受給できた。3年ほどでモトが取れる計算だ。地方議員にも似たような制度があった。なるほどセンセイたちの感覚では、年金は「もらう」ものなのだろう。

【新設・既設】

 国際医療福祉大学は1995年に設立された私立大学。医学部や歯学部を持たない大学としてはめずらしく大学病院を併設している。保健医療学部、医療福祉学部、薬学部からなるこの大学に、今春、医学部ができる。

 

 医学部が新設されるのは、昨年の東北医科薬科大学に続き2年連続のこと。首都圏では東海大学以来43年ぶりとなる。医師の「需給」を考慮して医学部の新設は抑えられてきたが、この2年間は特例的に設置が認められた。

 

 「東北」は震災復興策の一環として新設が認可されたもの。今回の「国際」は、国が国家戦略特区に指定する千葉県成田市にキャンパスを置くことが決め手となった。空の玄関口である成田で「国際的な医師の育成」をめざし、外国人が治療目的で来日する「医療ツーリズム」への対応も視野に入れるという。

 

 開学時の学費は6年間で約1850万円。私立のなかには5千万円かかる医大もあり、昨年の「東北」でも約3400万円を見込んでいるというのだから、医学部の学費としては最低水準だ。

 

 だが、医学部の新設で全体の定員が増加することに慎重な意見もある。団塊世代の寿命が訪れて人口が減り、医師過剰の時代がやってくるのだから当然だ。新設医学部には大いに期待したいが、既存大学の教育充実も忘れてはなるまい。

【正義】

 小田原市の生活保護担当職員が、揃いのジャンパーを着て受給者の自宅を訪問していた問題。ジャンパーにはローマ字および英文で「保護なめんな」「我々は正義だ」「(不正受給しようとする人々に)あえて言おう。クズであると」などと書かれていたといいます。では、あえて言いましょう。バカであると。

 

 ジャンパーは2007年からつくられていました。ごていねいに夏用のTシャツもありました。携帯ストラップもマグカップもつくっていたそうです。よほどヒマだったのでしょうか。繰り返し言うしかありません、バカすぎると。

 

 生活保護担当者は、受給者の生活実態を把握するとともに、その自立を支援するため、最低でも半年に一度は自宅訪問するように法で定められています。つまり小田原市の生活保護担当者たちは家庭訪問のたびに揃いのジャンパーを着こみ、「生活保護なめんな」「クズ」などの文言を、受給者に見せつけていたことになります。これでは、自立支援どころの話ではありません。もはや単なる威圧でありイヤガラセ、いじめでしかないでしょう。支給決定の権限と自立サポートの仕事を兼ねそなえる生活保護担当者は、受給者から見れば、圧倒的に強い立場です。その立場にあるものがこのような行為におよぶことは、もはや差別としか言いようがありません。ですが、こうした問題は、果たして小田原市だけのことなのでしょうか。

 

 生活保護について議論すると、必ず「不正受給」が問題になります。虚偽の申請で不正に保護費を受給するなど、まったくもって言語道断です。こうした不正をなくすために、申請を受理する際の確認は厳格に行われるべきでしょう。そして、「本当に必要な人に行き渡らせる」ことが肝要です。

 

 「本当に必要な人に行き渡らせるために」という大義名分は、まったくその通りだと思います。では、「本当に必要な人」はどのくらいいるのでしょうか。生活保護基準以下の世帯のうち、実際に生活保護を受給している世帯数の割合を「捕捉率」といいます。驚くべきことですが、この捕捉率を「計算したことがない」という自治体がほとんどなのです。不正受給の件数やその割合については良く調べているというのに、なぜ、捕捉率は計算されないのでしょうか。

 

 いうまでもありませんが、不正受給は「悪」です。詐欺罪に該当することもあります。しかし、「本当に必要な人」を把握していない役所の職員たちが、受給者に「なめんな」「クズ」と書かれたジャンパーを見せつける行為も、決して「正義」ではありません。あえて言いましょう、それは正義ではなく不正義だと。

◆2月◆


【資産ゼロ】

 参議院議員121人の資産が公開された。昨年の選挙で当選したセンセイ方のものだ。このうち15人が「資産ゼロ」と報告していた。まさか選挙にお金がかかりすぎて、無一文になってしまったというわけではあるまい。あらためて報告しなければならないほどの資産は持っていないということだろう。

 

 政党が選挙費用をすべて負担してくれたり、支援者が寄付をしてくれたり、政策を支持する人々がボランティアとして手伝ってくれたりするから、お金がなくても立候補しやすいのかもしれない。2世、3世といった世襲議員が増えるなかで、裸一貫から身を起こそうとする叩き上げの候補者に魅力を感じるのも人情だ。

 

 しかし、121人中15人ものセンセイが「資産ゼロ」というのは本当だろうか。公表された資産には、家族名義のものや普通預金が含まれていないのだ。配偶者や親、子どもの名義で資産を集中させれば、報告書の上では「資産ゼロ」ということになる。財産を少なく見せるトリックが簡単に成立してしまうわけだ。

 

 これを一般の納税者がやったとしたらただではすまない。税務調査で真っ先に調べられるのは家族名義の預貯金。「預けていただけ」などと言ったところで、贈与とみなされるのがおちだ。

 

 税の公平性を確保する観点からも、センセイ方の贈与税調査は最低限必要だろう。

【介護事業者の倒産】

 2016年の介護事業者の倒産は108件で、過去最多だった15年の年間倒産件数(76件)を上回った。東京商工リサーチが発表した数字。介護報酬引き下げに加え、人手不足による賃金の高騰で小規模業者を中心に経営が立ち行かなくなっている現状が浮かび上がる。

 

 業態別の内訳では訪問介護が48件と最多。デイサービスなどが38件、有料老人ホームが11件となっている。規模別では従業員数が5人未満の小規模事業者が79件と、全体の約7割を占めた。

 

 新規事業者の苦戦も目立つ。参入5年以内の倒産は54件で全体のちょうど半数となっている。特別養護老人ホームと有料老人ホームでは負債総額10億円以上の大型倒産がそれぞれ1件あった。その影響もあり、16年の負債総額は94億600万円と、15年(63億8600万円)から大幅に増える結果となった。

 

 介護保険法は高齢社会化に対応する目的で1997年に制定され、2000年から施行された。介護を必要とする人の「尊厳を保持」し、自立した日常生活を営むことができるようにするための制度だ。

 

 しかし、その担い手である事業者が倒産してしまうようでは施設やサービスの充実は図れない。報酬の不正請求などは言語道断だが、報酬引き下げの議論はもっと慎重になされるべきだろう。

【命名権】

 命名権というのをご存知でしょうか。日本では施設の名称に企業名や商品名を冠する権利のことを指します。ネーミングライツとも呼ばれることが多いので、こちらを耳にする機会もあるでしょう。

 

 現在、プロ野球の12球団が本拠地として使用している球場でも、その多くで命名権が採用されています。セリーグは広島のマツダスタジアムだけですが、パリーグは日本ハムの本拠地である札幌ドーム以外の球場が、ネーミングライツによって企業名や商品・サービス名を冠しています。大阪の京セラドーム、福岡のヤフオクドームなどがそれです。

 

 従来から、スポーツ大会などにスポンサーの名称を冠する形での命名権ビジネスは存在していましたが、1990年代後半頃からは米国でスポーツ施設の名称に企業名を付けるビジネスが広がりました。メジャーリーグでクラシカルな新球場(ボールパーク)が数多く建設されると、地元の企業などが命名権を買い取り、抜群の宣伝効果を発揮しました。これによってネーミングライツビジネスは、ほかのスポーツ種目やヨーロッパのスポーツ界へと広がりました。

 

 日本では、2000年代前半から赤字の公共施設の管理運営費を埋め合わせる手段のひとつとして導入され、その範囲はスポーツ施設や文化施設、路面電車の停留所などにおよんでいます。地方自治法では、命名権の売却が「公有財産の処分」にあたらないとされているため、議会での議決は必要ありません。

 

 東京メトロ銀座線の「三越前駅」は、昭和7(1932)年の開業に際して、その建設費用を三越が全額負担したもので、命名権の先駆けと言えるでしょう。コンサート会場として知られる「サントリーホール」の所有者は森ビルですが、サントリー芸術財団が運営する施設のためこの名称となっています。鎌倉市の海水浴場3カ所の命名権を購入した「鳩サブレー」の豊島屋は、地元企業として「鎌倉の海は旧名称のままが良い」と判断、命名権を行使して「旧名称と同じ名称を付けた」形をとっています。2003年に味の素が東京都から命名権を取得した調布市の東京スタジアムは、今日では「味スタ」の略称で定着しています。サッカーのJリーグはタイトルパートナーの社名を冠して2018年までの4年間「明治安田生命Jリーグ」となっています。

 

 契約の満了や変更によって、施設の名称が短い期間でコロコロと変わることを問題視する意見もあります。米国では20年などの長期契約が基本です。インボイス、グッドウィル、プリンスと短命の名称が続いた西武ドームは3月から5年間「メットライフドーム」に。親しまれる名称として定着してほしいものです。

◆1月◆


【酉】

 2017年がはじまる。相場格言では「申酉騒ぐ」とされる酉年。申年から引き続き値動きが荒く、相場が騒がしくなるという。騒ぎに巻き込まれないように警戒するのもよし、騒ぎに乗じて利益を生み出すのもよし。いずれにしても社長さんの冷静な判断が求められる。本紙はその判断の材料となる情報をタイムリーに配信・提供していきたい。

 

 十二支のトリは当然ながら鶏や鳥を指したものだが、「酉」という漢字はもともと「酒壺」を意味したものらしい。収穫した果実から酒をつくる行為に由来した漢字だという。ならばぜひ、手塩にかけて育ててきた事業の実りを収穫し、その果実に心から酔いしれる1年としたいものだ。

 

 72年前の酉年、1945年は終戦の年。南極越冬隊がオングル島に初上陸したのは60年前。アポロ11号が人類初の月面着陸に成功したのは48年前。常用漢字が定められたのは36年前だが、「酉」の字は含まれなかった。24年前にはプロサッカー、Jリーグが開幕。JR福知山線の脱線事故は12年前のことだ。

 

 2017年は沖縄返還45周年、JRグループ発足30周年にあたる。東京スカイツリーは開業して早くも5周年を迎える。

 

 そして、日本国憲法施行70周年の年でもある。改憲勢力が圧倒的多数を占める国会。騒がしいだけの憲法論議になっていないか注視していきたい。

【痛税感】

 大型間接税の議論が始まったころ、当時の中曽根康弘首相は「羊が鳴かないように毛をむしること、それが税の極意」と発言。あとで「強権的なやり方を避ける意味だった」などと釈明したが、納税者・国民を〝もの言わぬ家畜〞扱いにしたと大問題になった。

 

 「新税はすべて悪税といわれるが、慣れてしまえばそれまでのこと、ともいわれる」。消費税導入の前年、こう語ったのは当時の竹下登首相。反対や反発があっても、実施さえしてしまえば、やがては慣れて定着する。自民党政権の歴代首相には、そんな思いがあったことだろう。

 

 「痛がらせるな」「気づかせるな」「慣れさせろ」。どれも当時は国民から大反発を食らったものだが、最近はどうだろうか。〝改革〞には「痛みが伴うものだ」とした当時の小泉純一郎首相は、それに「耐えろ」といった。民主党政権は「政治家も役人も身を切る」などと語るだけで、実行には移さなかった。そればかりか、「議論すらしない」としていた消費増税を決めた。

 

 医業経営者にとって消費税は、支払うばかりで受け取ることのない完全な〝損税〞だ。この痛みに耐えることに慣れ過ぎて「鳴かない羊」になってしまってはいけない。患者の痛みだけではなく自らの痛税感を取り除くためにも、医師は声を上げていくべきだ。